葵香の勝手 宮小説の世界

yahooブログ「Today is the another day」からこちらに移行しました。

only one phrase mail.

――――愛してる――――




この言葉の意味は何だったのか。

俺は今でも知らない。

このときの心情をあいつに聞いてもきっと「忘れちゃった」とはぶらかされるだろう。

マカオと韓国で離れ離れになっていたころ、不意にチェギョンからメールで送られてきた言葉。

ただこの一言が書いてあった。

たった一言。


受け取った瞬間、ただただ見つめていた。

同じように打ち、彼女に送った。



どうか笑っていて、どうか泣かないで――――



と願いながら。



彼女に無償に会いたくなるとき、これをいつも見つめた。

頭の中で彼女が笑って言っている姿がりフレインする。

この言葉が彼女と俺を繋いでいた。




時は過ぎ、彼女は無事に俺の元に戻ってきた。

子供も生まれ、幸せな時間を共有している。

そして、携帯電話はあれから何度も替わった。

あの時使っていた携帯電話は彼女が帰ってきた数ヵ月後に使い物にならなくなった。

インに連絡をし、新しい携帯電話を用意してもらった。



「シン君、ケイタイ替えたんだ。調子悪かったもんね~!!」

使えるようになった途端、チェギョンのやわらかい声が聞こえた。

新しいメールアドレスを聞き出すと、早速何かを打ち始めた。

送られてきた言葉は、これだった。



――――愛してる――――



たった一言。

句読点もなにもない、名前も書いていない。

たった一言。


何度もベッドの中や日常の中で繰り返し囁いている言葉なのにおかしくてたまらない。

画面越しに見るその言葉はなんとも愛しく感じる。

彼女も同じ気持ちなのだろう。

替えるとすぐに名前も入れず、お互いに送りあった。



それ以来、機種変更をするたびにお互いに最初に送るメールはこの言葉になった。




――――愛してる――――




とても大切な言葉。

とても愛しい言葉。

彼女に何度も何度も言いたい、言わせたい言葉。



これからもどれだけ言っていくのだろう。

送りあうのだろう。



――――愛してる――――



と。




新しい携帯電話に替えた。

新しいメールドレスと共に送る。





――――愛してる――――





と、たった一言。




fin.