葵香の勝手 宮小説の世界

yahooブログ「Today is the another day」からこちらに移行しました。

LOVE PHANTOM episode 25

目を開け、ここが自分の部屋だと悟った。

シンが倒れ、意識不明の昏睡状態・・・。

そう聞いた気がした。

「チェギョン、目が覚めた?」

隣りでどこか懐かしい声がした。

とても優しいトーン。

「ユル君?シン君が倒れたって本当?ねぇ嘘だと言って!彼はそんなに弱い人じゃないっっ!!」

チェギョンは飛び起きてユルにつかみかかり、懇願した。

涙はいまだに溢れるように流れる。

どれだけ頼み込んでもユルはノーとは言わなかった。

「本当だよ。」

それはまるで裁判官に死刑勧告されたような気分だった。

「チェギョン、本当だ。今はまだ伏せられてるが、いずれ知られる。」

隣りにいたインも同じことを言う。

反対側にいたチェヨンに目線で訴えるが、彼も首を横に振った。

「どうして?どうして?」

チェギョンはいまだにシンが倒れたこと、目覚めないという事実を認めようとしない。

「チェギョン。」

ユルはあの頃と変わらない優しいトーンで話しかけた。

思わずチェギョンはその声の主を見上げた。

「本当だ。それにあいつはそんなに強くない。それは一番チェギョンがわかってることだろう。
 20年間よく頑張ったと思うよ、俺はね。」

彼が弱いことはわかっていた。

彼の弱さも孤独も不器用さも何もかもわかっていた。

わかっていながらお互いどうしようもなかった。

逃げることは簡単だ。

でも、それさえもできなかった。

明けぬ朝はないように、逃げ切ることは不可能だった。

「僕は父が本心から笑ってる姿を見たことがないんです。
 確かに父は僕に多大なる愛情を与えてくれました。
 でも…父自身はどうだったのだろうと今更ながら思うんです。
 父は僕に一切の弱さを見せたことはありません。泣いた姿なんて一度たりとも見たことがないんです。
 いつも威厳があって尊敬されて誰から見ても立派な国王であり父でした。
 でも、父である前に国王である前に、父も人間なんです。
 僕は…父に笑ってほしくてここまで来たんです。」

チェヨンはそこまで話すと、泣き始めた。

皇太子という地位にある彼もまだまだ子供。

チェギョンはシンが泣いているかのような錯覚を起こした。

チェギョンはやっと泣きやんでチェヨンを抱きよせ、頭を撫で始めた。

大丈夫大丈夫と言われているような気がチェヨンはした。

ああ、母というのはこんなぬくもりなのかとも思った。

チェヨンさん、シン君が、あなたのお父様が目覚めないというのは本当なのね?」

それはそれはやさしい声だった。

まるで聖母マリアが降臨したかのような声だった。

チェヨンは頷くのがやっとだった。

「チェギョン。シンはいまだに君を失ってから暗闇の中にいる。
 俺らでさえも弱さを見せないんだ。
 あいつを笑わせてくれ。あいつを泣かせてくれ。
 あいつを人間らしくしてやってくれ。お願いだ。
 もうお前しかいないんだ。あいつをあいつらしくしてやってくれ。頼む。」

インさえも頭を下げる始末。

でも、チェギョンはどうすることもできなかった。

帰ることは簡単だ。

でも、それによって引き起こされる様々な出来事。

それに立ち向かう術も勇気さえもチェギョンには持っていなかった。