葵香の勝手 宮小説の世界

yahooブログ「Today is the another day」からこちらに移行しました。

LOVE PHANTOM episode 29

「で、その場でスカウトされたんだ。翊衛士にならないか?って。」

チェジュンはそれを思い出して苦笑した。

チェギョンは最初はポカーンとしていたが、急にニコッと笑った。

いや、その笑みは苦笑に近かった。

「相変わらず強引ね…。俺様性格も変わっていないみたいね。」

チェジュンはその顔を見て、やはり姉もまだ義兄さんを愛しているのだなと思った。

嫌いになって別れたわけではないことは知ってる。

憎んで憎んでケンカ別れをしたわけでもないことは知ってる。

周りの大人がそれを強制したまで。

それに抵抗する術を二人とも持っていなかっただけ。

あったとしてもそれに伴うリスクはあまりにも大きすぎた。

「そりゃあ最初は断ったよ。もうその頃には義兄さんは金持ちの宮家の女性と再婚してたしね。
 それだけは知ってたんだ…。どれだけ耳と目を塞ぎたくても入ってくる情報なんでね…。」

チェジュンは苦笑するしかなかった。

今なら皇室がどれだけの感情を押し殺して続いていたのかがわかる。

人間を人間として扱っていないのもわかる。

この自由がとても似合う姉があの頃出たい出たいと言っていたのも理解できる。

チェジュンの顔を見たチェギョンはやはり複雑そうな顔をしていた。

「そしたらさ、とある場所に連れていかれたんだ。そこにいたのは誰だと思う?」


―――俺の口から言うことになるなんて…義兄さん、むごいことしてくれるな…―――


チェジュンはさすがに今、本当にこのことを伝えるべき人間を恨んだ。

チェ尚宮がいたんだ。それもお腹が大きかった。…その姿は妊婦だったよ。」

チェジュンはチェギョンから答えを聞くことなく、やすやすと答えた。

爆弾付きで。

チェギョンはそれはそれはこれでもかというほど目を丸くして驚いている様子だった。

チェジュンはとても柔らかく微笑んだ。

「そのお腹の子がチェヨンだよ。そうだよな、チェヨン…。」

チェヨンはやはり外はもうかなり暗くなっていることを心配して追いかけてきたのだった。

チェジュンはその姿をきちんととらえていた。

「ねえちゃん、こればかりは誤解しないでよ。
 チェ尚宮は義兄さんと想像するような関係を持ってないよ。
 チェヨンチェ尚宮の胎を借りて生まれてきたんだ。代理出産だよ。
 ここイギリスではよくある話だろ?そして、これの方がびっくりだと思うけど…。
 チェヨンは姉ちゃんと義兄さんとの間に生まれた子だよ。
 姉ちゃんの冷凍保存された卵子を使ってね…。」

チェギョンも横で聞いていたミンスもこれでもかというほどびっくりして何も言えなかった。

「チェギョンさん、チェジュンさんが言われたことは本当です。
 父は再婚した相手と手さえも握ったことがないんでです。
 まあ公務でやれと言われたらやってましたけど。
 子供ができるようなことさえもしたことがないと思いますよ。
 そうじゃなかったら体外受精を意図的に誘発し、隠していたあなたの卵子と掛け合わせ、
 チェ尚宮を間にはさんで僕を誕生させるようなことはしません。」

チェジュンはその答えに頷いていた。

「義兄さんから直に聞いたから間違いないよ。
 『お前の甥っ子だよ。俺を守らなくてもいいからこの子を守ってくれ』って言われたんだ。
 それで俺は翊衛士になったのさ。半分チェヨンの子守だったけど。」

もしチェヨンを見ていなかったら、きっとどうやっても断っていただろうと思う。

数年間、翊衛士となるためにありとあらゆる武術を叩き込んだ。

それはこの甥っこを守りたかったからにしかない。

今までずっと甥と叔父の関係を黙っていたが、それでもチェジュンはこのチェヨンが可愛いかった。

シンがなぜ自分を選んだのか、その時ようやくわかった。

そのことは当然秘密として扱われた。

知っているのはごくわずかな人間のみ。

敵が多い皇室という世界で、安全なチェジュンをチェヨンのもとに置きたかったシンの気持ちも痛いほどわかった。

そして、いつか姉を返してくれる…その言葉をチェジュンは信じてチェヨンと共にいようと誓った。


――――――まさかこうなるとは思わなかったけど…
                       ずるいよ、義兄さん―――――



チェジュンは誰にも分からないため息をひとつした。