LOVE PHANTOM episode 53
「『愛してます。心から愛してます』
そう言われても不安は消せなかった。これはパフォーマンスの一部だと思った。
突然公式会見でそんなこと言う彼の本心が分からなかった。
信じられなかったの・・・シン君が・・・。」
すべてはそう。
彼を信じられなかった自分が悪いとチェギョンは自分を責めた。
お決まりのセリフをいい、体面を果たすなんてできなかった。
これですべてが解決すると思った。
「どうして?どう・・・」
「あれが二人にとって最善だと思っていたのよ!信じていたの!離婚は・・・。
『離婚をしよう』そう一方的な約束をしてきたのはシン君よ。彼なのよ。」
ミンスの言葉をさえぎってチェギョンは大声で感情をあらわにした。
その言葉に3人は驚愕した。
ミンスにもチェヨンにも理解できなかった。
どうして?
「第一シン君には好きな人がいたし、私はその彼女にプロポーズするところを目撃してる。
私がいたら邪魔。二人の邪魔になる。私が去るのが一番だと思っていた。そうすれば幸せになる。
なのに・・・・なのに・・・答えは違ってた。」
涙がぽつりぽつり頬を伝っていく。
「今でもあの会見を私は覚えています。
皇室の人間があれだけストレートに仰ったのは後にも先にもこの一度きりです。」
モレは当時の会見をかなり印象深く覚えていた。
あれ以来モレは公式の席上で陛下がストレートにものをいうことは二度となかったことは知っていた。
「その映像はここにあるぞ。」
急に後ろのほうから聞いたことのある声。
それはファンの声だった。
その後ろにはインとヒョリンの姿もあった。
チェギョンもミンスもチェヨンもモレさえもその声に顔を上げた。
ファンは黙ってスタスタと部屋へ入り、DVDデッキへセットし、画面に出した。
そしてコマを肝心なシーンへ早送りし、再生した。
チェギョン:ちょっと待って下さい
司会者:はい?
チェギョン:お話があります
司会者:どうぞ
チェギョン:その・・・離婚をしようと・・・
司会者:離婚?
チェギョン:あの・・・
シン:そうなんです。僕たちは離婚まで考えていました。昨夜そこまで話すのはやめよう。
そう話し合ったのですが皇太子妃は正直なので結局明かしてしまいましたね。
司会者:どういうことでしょう?
シン:僕たちは自分たちの意志で結婚したのではありません
司会者:新聞に書かれたとおり政略結婚をなされたということですか?
シン:そのような表現は適当ではありませんね
司会者:もうしわけございません
シン:僕たちの結婚は政略的であったり政略的な意図等とはまったく関係ありません。
もしそういう意図があったら財界の家筋の娘さんと結婚していたでしょう
司会者:ではどのような理由で・・・
シン:聖祖殿下と・・・皇太子妃のお祖父様が僕たちの結婚を約束されたのです
司会者:ということは・・・お二方の約束は国民に真実を隠してでも守らなければならない
約束だったということですか?
シン:皇帝は嘘をつかないという言葉があります。一般の人たちの約束と皇帝の約束は違いますので
司会者:ではお二人のお祖父様のために結婚せざるを得なかったわけですね
シン:僕たちにとってとても辛い命令でした。納得ができず強く反発しました。
司会者:はい。
シン:記事に書かれたとおり当時思いをよせていた女性にポロポーズまでしに行ったほどです
司会者:はい
シン:しかし最終的に決めたのは・・・結婚を最終的に決めたのは僕たちでした。
世の中には一般常識では理解できないことがたくさんあります。
僕の周囲の変化がその一つです。今ではお祖父様に感謝しています。
それに・・・僕よりも辛い決断を下してくれた皇太子妃にも心から感謝しています。
平凡な女子高生がたった一人で入宮し味わった寂しさと苦痛を皆さんも考えてみてください。
自由に外出もできず皇室で監視される生活を受け入れ僕の妻になってくれた彼女を・・・
そんな生活が辛くて涙を流すこともありますが泣かないように必死に耐えようとしてくれる
彼女を愛するようになりました。もう一度よく考えてみてください。
完璧ではありませんが幼いながらも自分の運命を受け止め最善を尽くしている
皇太子妃の愛を皆さんも感じられるはずです。
後は皆さんが僕たちを認めて下さるのを待つだけです
司会者:いいお話をありがとうございました。長い間お疲れ様でした。ありがとうございました。
映像はそこで終わった。
ミンスもチェヨンも食い入るように見ていた。
チェヨンには父が嘘を言っているように、パフォーマンスを言っているようには見えなかった。
チェギョンは泣きながら『ごめんなさい・・・』とずっと小さな声で呟いていた。
「ファンさん、よく持っていましたね?貴重なものをありがとうございました。
なんか父が若いですね。でも、咄嗟のことなのにこれだけうまくまとめられる・・・。
やっぱり息子から見てもすごいなーと思いますよ。あー、愛の力は偉大だな・・・と思います。」
ヘンなところで感心するチェヨン。
「これはシンから預かったものだよ。もし、いつかチェヨンが見たいと言ってきたら見せてやれ。
そう言っていつか渡されたよ。持ってきておいてよかった。
チェギョンには辛いものかもしれないけど、シンがこれほどのことを言うとは
俺らも当時信じられなったけどね。でも、シンの深い愛情は伝わったよ。」
数年前に渡された1枚のDVD。
なぜシン自身から見せようとせず、自分に渡すのか・・・。
ファンには当時理解できなかったが、すべてに『運命』という文字があるならば、これだったのか・・・。
そんなことをふと思う。
―――シン、すべてわかっていたのか?なぁ?―――
「チェギョン、あなたを今でも悲しませてごめんなさい。
私があんなことをしなければきっとシンとあなたは幸せに暮らせていたでしょうに・・・。
ごめんなさい。ごめんなさい。でも、これだけは言わせて。
私は当時シンと付き合っていたと信じてた。でもシンは違っていたのね。
タイでのことも・・・。あの当時シンと私はよく似てた。
でも、あなたに出会って、あなたを愛し初始めてシンは変わっていった。
インを愛してよくわかった。
私たち2年も一緒にいて、けんかしたこともないしキスもしたことがない。
抱き寄せられたこともないし、宮に遊びに行ったこともない。
インとはしょっちゅう喧嘩もするし、泣いてわめいて、もう大変。
シンはきっと私より早くそれを手に入れただけ。
感情が素直に表せる、表に出しても大丈夫なあなたをね。
受け入れられなかった私がバカだったのよ。
あなたたちをかき回したのは私。本当にごめんなさい。」
いつかいつか言おうと思っていた言葉。
謝っても過去は変わらない。
これは自分の気休めかもしれない。
でも、それでも言いたかった。
インとけんかをしながらチェギョンはきっとこうだったのだろうかと思う。
シンもきっとこんなんだったのだろうなと思う。
――幸せになれ。俺みたいになるなよ。――
インもヒョリンも、そのほかの友人たちもみなこうシンに言われた言葉。
――一番幸せにならなければならないのはあなたでしょう?――
そう言いたかったが言えなかった言葉。
どこかにいる。
どこかに絶対いるチェギョンにいつか会ったら会えたら頼みたかった言葉。
「チェギョン、シンとあなたは私たち以上に幸せになって。ならなくちゃ困るわ。
もう十分にシンに幸せにしてもらったから。あなたたちが幸せになってね。お願いよ。」
ヒョリンはギュッとチェギョンを抱きしめた。
あの頃は恋敵だった二人。
でも、今二人とも望むこと。
ここにいる全員が望むこと。
それは、シンが早く目覚めること。
それ以外に何もなかった。