LOVE PHANTOM episode 83
「もちろんチェ尚宮は今でも父に仕えていますが、胎を貸しただけですので、あしからず。
くだらない妄想はやめていただきたい。不愉快なので…。」
チェヨンはにこっと微笑んだ。
「では、シン・チェギョンの卵子をどのように取ってきたのか・・・。
これ、僕にもわからないんです。母に聞いても同じでした。
『いつなの~?』と憤慨していたくらいですから…。
父が目覚めたら問い詰めて聞き出してやる~と息巻いていましたから…。
それでおいそれと父は目覚めないのかもしれないですね…。」
チェヨンはおかしそうに笑った。
本当に知らない。
どのような過程で取り出したのか…。
いつ、どのタイミングで…?
それを知るすべは全て父が目覚めてから…。
「ということで僕の出生の秘密は以上。これ以上はありません。
先ほどもかのご老人がおっしゃっていましたが、父を侮らないでください。
もし、先ほどの決定事項をなかったことにする…なんてことになった場合、
おそらく父は皇室を廃止するでしょう。
脅しではありません。20年前もできたんですよ。行使しなかっただけです。」
チェヨンは再度愉快そうに笑った。
「あなた方はきっと不思議に思うでしょうね。
20年間父はあなた方、家族さえも騙して、シン・チェギョンとイ・ミンスを隠してきたんですから。
もし廃止したら、おそらく父の予定では、あくまで僕の予想ですが、一切の国庫は国民に分け与えるでしょうね。
もちろんあなた方は王族の称号は意味を持たなくなってしまう。また、一切の支援もなくなる。
それでも父は満足するでしょう。『生活資金は?』と思われるかもしれない。
それこそ愚弄。父はきっと、僕は知りませんが、外貨を稼いでいるでしょうね。
そんなことは家族をも騙した父にとって赤子の手を捻るくらいでしょうから…。」
チェヨンは本当に楽しそうにクックックと笑った。
外貨で稼いでいる。
その事実はあながち嘘ではない。
でも、詳しくは知らない。
知っているのはそばにいる父の友人たちが一番よく知っている…はず。
これではないかと考えているものはあるが、核心はない。
まあ、それでもいいか…とチェヨンは大して深く考えていない。
王族の皆皆さんはそれらの事実に愕然としている。
もう遅い。
あなた方が父を怒らせたのだから…。
寝た子を起こしたのはあなた方。
それでも最後にはこう締めていた。
「父、イ・シン、母、シン・チェギョン、姉、イ・ミンス。そして僕、イ・チェヨン。
この4人は20年間バラバラに育てられたとはいえ、家族です。
これからどうなるのかわかりませんが、家族です。
その時間をこれからも僕は持ちたいと思います。」
チェヨンは先ほどの笑顔とは打って違い、真顔で一人一人の顔を見ながらそう締めくくった。
ヒョンもウンギョクも一切なにも言わなかった。
チェヨンにすべてを任せていた。
ヒョンにとっては息子、シンの気持ちを一番よくわかっているのはいちばん身近で見てきたチェヨンなのだから、彼がしっかり話せばいいと思っていた。
ウンギョクによっては、自分の気持ちを正直に話したら相手に必ず通じると自分の経験からそう信じていた。
「あ、すみません。僕から一言…。
おそらく何人かの方が僕を担ぎ出そうと密かに思っているのかもしれません。
しかしながら、シンが、現皇帝が即位した後、僕は彼に親書を送っています。
『皇位継承者を一切放棄する』というものです。
それに対し、シンは後日「わかった」と一言書かれたメモ?のようなものを送ってきました。
ということで、今もその気持ちは変わりありません。
僕は現在、イギリス人の妻と子供とイギリスで暮らしています。
ただ、今、この皇室がこういう状態だから、シン・チェギョン親子を助けるために
一時帰国したに違いありません。お間違いのないように…。」
ユルはきっぱりと宣言した。
何人かはその言葉にうなだれていた。
おそらくユルを皇帝に担ぎあげようとした者たちであろう。
チェヨンはフンっと笑い、そのまま一礼し、何事もなかったように退室した。
ヒョンもウンギョクもそれに続いた。
そのあとをユルとインが退室していった。