想い~Secret heart~
――ねぇシン、今でもチェギョンが好きだって言ったら君はどうするかな…?――
電話が鳴った。
滅多にならない家電。
この番号を知っているのはごくわずかな人間であり、身近な人間。
ユルはその時、ゆったりとソファに座り、優雅に紅茶を飲んでいた。
「Hello?」
『ユルか?』
その声は聞き覚えのある声であり、久しぶりに聞く母国語だった。
「シン?」
思わず聞き返してしまう。
滅多に連絡を取ることはない。
滅多に連絡も来ない。
そんな風になってしまった。
「どうしたんだ?何かあったのか?」
滅多に鳴らない電話はある意味不気味だ。
嫌な汗がスーッと流れる。
何かあったのではないか…と最悪な妄想が浮かぶ。
そんな慌てふためいた自分にシンは無言だ。
≪何か言え!≫と心の中で悪態をつきながら話しだすのを待つ。
たった数秒が途轍もない長い時間に感じる。
まるで終身刑を言いた渡される囚人のようだ。
『子供が生まれた。男の子だ。』
ボソッと小さな声でシンは呟いた。
そう言えばニュースで仲がいい二人が映し出されていた。
「おめでとう…」
それがやっとだった。
『ありがとう。それでだな…。』
またそこでストップする。
こいつは何を言いたいのだ?
「早く言えよ。じれったいな…。」
『ユル…俺はお前がそばにいてほしいと願ってる。帰国しないか?』
頭が真っ白になった。
そんなことなど予想もしなかった。
『「恩赦」という言葉は嫌いだが、子供がもし産まれたらお前に帰ってきてほしいとずっと思ってた。
なあ、帰ってこいよ。俺もチェギョンも皆もお前に会いたい…。お祖母様も会いたがってる。』
なあ、帰ってこいよ。俺もチェギョンも皆もお前に会いたい…。お祖母様も会いたがってる。』
帰れないわけではなかった。
永久追放になったわけではなかった。
でも、どの面下げて帰ればいいのかわからなかった。
だから帰らなかった。
もうそんな時間も数年を過ぎてしまった。
『数年後には俺は皇帝になる。その時片腕としてお前にいてほしい、ユル。
俺たちは考え方は全く違っていたが皇室をどうにかしたい気持ちは同じだろう?
もっと国民に近い、国民とともに歩む皇室にしたいんだ。そのためにもお前がいるんだ。
後はお前が決めてくれ。強制はしないが、帰ってくることを願ってる。』
俺たちは考え方は全く違っていたが皇室をどうにかしたい気持ちは同じだろう?
もっと国民に近い、国民とともに歩む皇室にしたいんだ。そのためにもお前がいるんだ。
後はお前が決めてくれ。強制はしないが、帰ってくることを願ってる。』
それだけ言って電話は切れた。
「誰から?」
後ろから突然声が聞こえた。
その声の主はファヨンだった。
「シンからだったよ。」
ユルは平静を装って、何事もないかのようににっこり笑って答えた。
それでも母の目は誤魔化せなかった。
「なんて?」
優しい笑みだった。
まるで答えなど知っているかのようだった。
「子供が生まれたんだって。それで僕に帰ってきてほしいって。
数年後には皇帝になるから右腕としていてほしいって話だったよ。」
数年後には皇帝になるから右腕としていてほしいって話だったよ。」
ユルは自分の気持ちなど悟られないように悟られないように話すのがやっとだった。
「あなたはどうしたいの?帰りたいんでしょ?必要とされてるのよ。帰ったら…?」
優しい頬笑みで躊躇などまるでなかった。
顔には「わかってるんでしょ?答えはもう出てるんでしょ?」と投げかけていた。
「母さんのことは心配しないで。あなたの人生よ。あなたが歩みたい道を進みなさい。」
「ユル、見てきなさい。自分の思いにきちんと決着をつけなさい。そして信じた道を歩みなさい。」
真顔ではっきりと言われた。
ユルは何も言わず、家を出た。
トボトボと歩く。
どうすればいいのか?
帰りたい気持ちはある。
でも、真正面から二人を見ることはできるのだろうか?
何も感じることなどなく…。
今も好きなのかわからない、もう。
もしかしたら何も想わないかもしれない。
でも・・・。
恐怖はそれでも加速していく。
そんな時だった。
誰かとぶつかった。
「미안해요.」
彼女はそう呟いた。
「You are Korean?」
思わず聞いてしまった。
けれど、その彼女に聞こえることはなく、そのまま彼女は急いで歩いて行ってしまった。
その出会いが後々のユルの人生に大きく関わろうとはその時想像もしなかった。
ユルは決心し、電話をかける。
その顔には何か憑物が落ちたようなすがすがしい顔だった。
その顔をファヨンは見ながら思う。
≪大丈夫≫だと。
「シン?ユルだけど、今いいかな?」
時差を考えて電話をしてみたが、都合が悪ければまたかける予定にしていた。
『大丈夫だ。どうした?』
まるで何事もなかったような声。
どうしてこうまでできるのか…きっとチェギョンの成せる業なのだろうと思った。
「この前の答え…帰るよ。カワイイ甥っ子も見たいことだし。」
ユルはニヤッと笑った。
この前のお返しだ。
待たせるだけ待たせたお返しだ。
「ねえシン、それとさ…まだ僕がチェギョンのことを好きだって言ったら君はどうする?
それでも僕に帰ってきてほしい?」
それでも僕に帰ってきてほしい?」
我ながらイジワルだと思う。
究極の選択…。
――さあシン、僕とチェギョン、どっちを取る?――
≪ブチッ。ツーツーツー≫
電話は突然切れた。
まるで電話線ごと切れたかのようだった。
ユルは腹の底から笑った。
笑い死にしそうなほど、お腹が痛くなるほど笑った。
シンの顔を想像したらおかしくて仕方なかった。
きっと今頃は怒り狂っていることだろう?
――シン、きっと大丈夫だよ。
きっとチェギョンを見てもあの時の想いとはきっと別の想いを抱いているよ。
≪好き≫は好きだけど、違う≪好き≫かな? 君には理解できるかな?――
きっとチェギョンを見てもあの時の想いとはきっと別の想いを抱いているよ。
≪好き≫は好きだけど、違う≪好き≫かな? 君には理解できるかな?――
――なあシン、君たち二人が幸せならそれでいいんだ…。――
ユルは窓の外を見ていた。
キレイな夕空が広がっていた。
ユルの心を描いたような、色だった。
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