いつかのメリークリスマス
実は“クリスマス”というものを体験してみたかった。
しかし、チャンスは早々に巡ってくるものではなかった。
欧米の皇室は平然とパーティーそするのにこの国の皇室は暗黙の慣例なのかモミの木一つ飾ることはなかった。
毎年24,25日は年末も近いのか、やたらめったら公務が多い。
確かに訪れる場所場所でクリスマスを体験させてくれるが、決まり切った作り笑いとお世辞で心から楽しんだという記憶はない。
ドラマの世界にあるような家族が集まってクリスマスツリーに飾りつけをしたり、ケーキや七面鳥を食べるということもない。
もちろんツリーの下にプレゼントが置かれているということもない。
そんなことが、そんなごく普通のことがしたかったのだ。
皇太子として冊封される前の年、珍しくそんな気持ちに気付いたのか気付いていなかったのかわからないが、母が手のひらに乗るくらいの小さな小さなかわいらしいクリスマスツリーをくれた。
「こんなことしかしてあげられないけど、ごめんね。」と言って。
それでも子供心に嬉しかった。
うれしくてうれしくてどうしようもなくうれしくて・・・。
しかし、二度とそれ以来そんな奇跡的な出来事が起こることはなかtった。
そう、あのときまでは・・・。
おじい様が起こしたマジック。
ミラクル・・・etc
どんな言葉を、最上級の言葉を捜し出そうとしてもこれと言って確実にしっくりくる言葉はない。
シン・チェギョン。
彼女と結婚しなければ皆無だった出来事の数々。
伝統としきたりを重んじるこの皇室が彼女によって数多くのことが変わって行った。
クリスマスもその一つ。
忙しいにもかかわらず、「どうしてクリスマスツリーを飾ってはいけないの?」で始まり、お付きの女官たちを困らせた。
彼女たちもどうして駄目なのか的確な言い訳を言うことができなかった。
「ねえシン君、どうして?」
聞かれても答えられない自分がいた。
考えて考えてひねり出した言葉がこれだった。
「慣例だ。」
そんな言葉は彼女の簡単な一言で打ち砕かれた。
「古めかしい“慣例”ね。時代錯誤もいいとこね。」
彼女はそう言うとさっさかどこかへ行ってしまった。
それから小一時間後彼女は満面の笑みで帰ってきた。
しかもピース付きで。
恐る恐る聞いてみると「許可は得てきたわ」と言う。
それもお祖母様である太皇太后様の許可を・・・。
それ以来平然とクリスマスツリーを飾る新しい“慣例”が成り立ってしまった。
そしていつの間にかどんなに忙しい時にでも、その前後には家族が集まり、クリスマスパーティが行われるようになった。
いつの間にか笑顔で父も母も参加するようになった。
「パパ、開けていい?」
そう言いながらもうプレゼントの包み紙を破っている娘、リア。
クリスマスツリーの足元には大量のプレゼントの山がそこにはできていた。
お互いの家族がお互いに贈るプレゼント。
父から子へ。
子から父へ。
母から子へ。
子から母へ。
母から祖母へ・・・。
これもいつの間にか“慣例”になってしまった。
それぞれに笑顔がこぼれるいつかのメリー7クリスマス。
毎年行われるいつかのメリークリスマス。
今年も訪れるいつかのメリークリスマス。
夢にまで見た幸せないつかのメリークリスマス。
幸せな象徴のいつかのメリークリスマス。
今年もその時はやってきた。
「シン君、はい。今年はこれね。」
そこには小さな小さなケーキが一つ。
メッセージカードとともに・・・。
―――もものエキスもピーナッツも入っていません――――
この瞬間を永遠に忘れはしないだろう。
どうか子供たちの心の記憶の片隅にでも家族と過ごすクリスマスの楽しい思い出が残りますように。
Happy Merry Christmas!!
エンド。