どっちが天の邪鬼?【前編】
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―――天の邪鬼ねぇ~―――
チェギョンはふとそんな言葉を頭の中に思い浮かべた。
でも、浮かびあがった瞬間、疑惑と言うか普通に思った。
『天の邪鬼って何???』
言葉の意味を的確に表せなかったのだ。
ということで、高校時代にお世話になった(?)辞書をひっぱり出してきて探しだす。
よく残しておいたものだ・・・と一人感心するチェギョンだった。
「あった!!なになに?≪わざと人に逆らう言動をする人。つむじまがり。ひねくれ者。≫
へぇ~、『ひねくれ者』ってまさしくシン君そのまんまじゃない?」
辞書片手に思わずニタニタしてしまう自分がいた。
「っということは素直じゃないってことよね?ひねくれてるんだし・・・。
でもそれってシン君にとってはある意味愛情の反対みたいなものでしょ?
別に悪いことなんてないじゃない?」
「俺が何だって?」
聞こえてくるはずのない声が聞こえ、思わず開いていた辞書をパタッと閉じてしまう。
しかもご丁寧に後ろに隠して。
それはバッチリかの声の持ち主には丸見えなのだが。
てくてくとチェギョンの方へ歩いてくきて、顔色からするとちょっと不機嫌。
“何かよくないことでもあったのかしら?”と長年の勘(?)のようなものが働く。
「なんか俺の悪口が聞こえたような気がするんだが、気のせいかな?」
じろりと睨まれる視線にチェギョンは頭皮の最上部からジワリと汗が流れ出すのが自分自身でもわかった。
―――どうしていつもタイミング良く現れるのよ~―――
悪態を心の中で呟いてみたが全ては後の祭り。
ということでここはいつもの手段を使ってみることに限るとチェギョンは思う。
それが功を奏すとははなはだ疑問だが。
―――負けてはだめよ、シン・チェギョン。ファイティン!!―――
ほんの数歩離れているシンにまるで自愛の女神かのように微笑む。
「シン君は『天の邪鬼』だなと思って。だってひねくれてるし、素直じゃないし。俺様だし。
でもそれがシン君らしいなと思って。素直な私の気持ちよ。」
チェギョンは何事もなかったかのように笑って見せる。
悪びれる様子など何一つない。
自分が信じていればよいこと。
だから、チェギョンはそんな言葉を紡いだ。
「悪口にしか聞こえないが・・・。」
シンにとってそれは確かに悪口にしか聞こえない。
でも、チェギョンの顔にはそれが一切見れない。
悪びれた様子がないのだ。
「それは言葉の取り方の問題よ。
だって考えてみてよ。シン君が何でもかんでも素直に聞いていたら怖いでしょ?
何でもハイハイと言うこと聞いていたら『シン君』じゃないと思うの。
あなたはそんなナヨナヨしい人じゃない。」
シンはふと思い浮かべてみる。
妻であるチェギョンに言われて反論することなく何でも『ハイハイ』と返事をし、へつらう自分を。
思わずブルブルと身震いした。
――気持ち悪い。そんなの、俺じゃない!――
チェギョンもシンが素直に何でも自分のことを聞く彼を想像してみるが、うまくいかない。
最初はまあ上手くいくかもしれないが、後から後から文句の百曼陀羅でも言われそうで、チェギョン自身も身震いをする。
「素直じゃないこともわかってる。ある意味、それは本当に私に対する愛情の裏返しだと思ってるの。
本当は素直に言いたいのに言えなかったり・・・とか。わかってる、私はね。
きっとそれを全世界中の人間で知っているのは唯一私だけだと自負しているし。それが私の特権だもの。
イ・シンと言う人物の妻である私の特権よ。」
チェギョンはこれでもかという笑顔をし、シンの身体を優しく包む。
「シン君はそのままでいいの。俺様でいいの。ひねくれていいの。素直じゃなくていいの。あなたはあなただから。 私はそれに怒ったり笑ったり、忙しいけど。時には喧嘩をするけどね。私たちらしいじゃない?」
『ね、そう思うでしょ?』とクルクル目でチェギョンはシンを見つめる。
シンはそれをじっと見つめた。
まるでそれは突然の愛の告白。
何度も何度も今まで無我夢中で愛し合っている時に≪愛している≫と言い合ったことはあるが、こんな真昼間に言われたことなど皆無に等しかった。
とても愛しくなり、彼女のかわいらしい愛しい唇に重ねようとした瞬間、彼女は再度口を開いた。
「ま、時々カチンと来るけど、それも愛嬌。」
一瞬、シン自身、カチンと来たというのは言うまでもない。
でも、妻の顔にはそんな自分の姿は映ってないらしい。
きっとキスしようとした自分の心情など完全にわかっていないだろう。
――鈍感なのか敏感なのか・・・。チェギョン、お前こそ俺を惑わす天の邪鬼だと思うが――
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