葵香の勝手 宮小説の世界

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大切な存在-ONE-それぞれの愛し方 1

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父が私に皇位を譲り渡しすと同時にこの宮を去り、一人とある別荘に行く日、ずっと聞いてみたかった質問をぶつけてみた。
 
 
――あなたにとって最も大切な人、only oneは誰ですか?――
 
 
 
単純な質問だが、答えを知るのが怖くて聞けなかった。
 
そんな私に、父はフッと笑ってこう答えた。
 
「守りたかった女、守れなかった女。そいつだけだ。」
 
そう言い残して、去って行った。
 


 
父と母の仲は決して悪かったわけではない。
 
一切口を利かないとか、毎日喧嘩して互いを罵り合っているということもなかった。
 
お互いを尊重し、ごく普通の家族と同じだった。
 
それまでのしきたりを変更し、父と母は自分たちの子供、つまり私を手元で育て上げた。
 
熱を出すと夜通し交代で看病してくれたり、ミニキッチンがあったので簡単な料理を作ってくれたり。
 
それはそれは本当にごく普通の家族の在り方だったように思う。
 
母の名はハン・スンミ。
 
王族出身で、才色兼備。
 
高校時代は王立校で数々の賞レースを総なめにしたという伝説の持ち主。
 
本人いわく、「ただうまかっただけよ」だそうだ。
 
それ故その当時からお妃候補に挙がっていたらしい。
 
またまた本人いわく「当時は嫌だったのよ」だそうだ。
 
父に言わせると「記憶にない」だそうだ。
 
母は子供の私に言わせるとかなり破天荒な人だと思う。
 
才色兼備を持ち合わせながらどこかのんびりとした能天気な気質を持ち、興味を持ったこと、しなくてはいけないことはとことんやり遂げた人だった。
 
そして庶民的な考え方を持った人だった。
 
それ故父が妃に選んだのだろうと思う。
 
母は父のことを『戦友』と後に語り、父も母をお互いをかなり理解のできる『戦友』だと呈した。
 
「愛情というより同じ目標を持った同士ね。戦友という位置関係に近いわ。ま、友達以上恋人未満かもね。」
 
母はそうやって苦笑いしていた。
 
母も母でずっとやりたかったことがあるからと、そそくさと父と同じように宮を出て、ライフワークとしていた孤児院の支援や数多くのボランティアに携わっている。
 


 
 
母にも後日改めて同じ質問をしたことがあった。
 
「あなたよ、ウソン。それはシンには感謝しきれないほどにね。あなたをこの手で育てられたし。
 本当にシンには感謝。それ以上の言葉は浮かばないわね。
 だからどうか彼が長年したくてできなかったことを邪魔しないであげてね。もちろん私のこともね。」
 
母はそう言い、少女のように微笑んだ。
 
父は母のことをソンミと名前で呼び、母も父のことをシンと呼び合っていた。
 
子供の私の前でもしかりだった。
 
ちなみに母は子供べったりではないし、私も母親べったりで母がいないと何もできないという人間ではないということはきちんと言わせてもらう。
 
そんな両親のもとで私は育った。
 
 
 
ここで疑問がわく人も多いだろう。
 
父の言う『守りたかった女、守れなかった女』とは一体誰のことだろうか…と。
 
その謎解きにはそれから2,3年の歳月を要することになる。
 
 
 
 
 
続く。
 
 
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