大切な存在-ONE-それぞれの愛し方 5
そこは私たち一家から見るとごくごく普通の別荘だった。
別荘といっても歴史ある列記とした離宮であることは変わりなく、普通は宮直属の管理人が配属され、管理にあたる。
そして私たち皇族がたまに夏などに避暑地として訪れる際などにきちんと整えてくれる。
でも、この離宮に関しては彼らはいない。
父がここに越してきてから彼らはいないのだ。
幼いころにボーイズスカウトに入っていたと言うが、食事は作れたとしても掃除、洗濯はできるのだろうか・・・と当初から私は心配していた。
はっきり言ってしているところを見たことがない。
父が掃除機を動かす姿もはたきを持つ姿も、もちろん洗濯機に洗濯物を入れる・・・という姿を見たことがない。
父は玄関先から出てきてすぐ「もう来たのか・・・」とまるで迷惑そうな顔をしていた。
「数日間お世話になります」とあいさつすると、同じような顔をした。
連絡もなく突然押し掛けた私たちだったが部屋はきちんと掃除されており、父が着ている服も小奇麗にされていた。
「父上、後ほど色々と質問したいことがありますので、お時間をください。」
そう言うとフッと笑ってイエスともノーとも答えず、妻に抱かれた孫を受け取り、見たことのない笑みを浮かべていた。
孫がなせる業か・・・と思った。
「お前が聞きたい謎の人物はそのうちやってくるよ。」
父はそう言いながら孫の相手で忙しいらしい。
やってくる?
もしや一緒に住んでるのか?
まさか・・・。
「同居しているわけではないが、泊まって行くこともある。近くに住んでるよ。
俺は一緒に住みたいがな。あいつはそういうところに気を使うから・・・。」
見透かされている自分の思考に自分自身驚く。
まだまだ皇帝だったころの冷徹さと洞察能力は衰えてないらしい。
賢帝と言われていた彼を間近で久々に見た瞬間だった。
「そんなことを言っていると母を呼び出しますよ。会いたいとも言っていましたしね。
物騒なことにならないことを願っておりますが・・・。」
「それはないな。ソンミとは結婚当初からの約束だったからな。皇帝の座を譲ったらそれぞれ好きなことをすると。それにすぐここに来れるようにしてくれたのもソンミのおかげだ。感謝しきれないほど感謝してるよ。こんな俺の妻になってくれたことも。」
嫌味を言ったつもりがそう返され、孫のチェソンはキャッキャ言いながらとても楽しそうだった。
「母を愛していますか?」
思わず聞いてしまったその言葉。
「愛の形は一つではなく、色々な形で存在する。愛しているよ、ソンミを。彼女だから俺はここまでこれたんだ。」
父からの正直な言葉だった。
私からの質問に一瞬ひるんだ様相を見せたが、正直に穏やかに父はまるで自分に言い聞かせるように話してくれた。
私自身とてもうれしく、母がここにいないことがとても寂しかった。
そんな時だった。
「しんく~ん!!」
元気な声が聞こえたかと思うと、バンっと一人の女性が登場した。
私は彼女を見た瞬間、口が開いたまま塞がらなかった。
なぜここに彼女が?
どうして?
なぜ?
「あら、おばさま、どうしてここに?」
妻はまるで近所のおばさんが登場したみたいに何事もなく平然とそう言った。
「チェ…チェギョンさん!?!?!」
彼女は紛れもなく、ミジュのおば、シン・チェギョン、その人だった。