葵香の勝手 宮小説の世界

yahooブログ「Today is the another day」からこちらに移行しました。

一コマの休息時間。

目の前の赤ん坊を見る。

ベビーベッドの上で手足をばたつかせ、何かを訴えている。

そしてやっと俺の存在に気がついたのか、じっと目線をこちらへ向ける。

思わず俺も同じようにじっと見つめる。

するとどうだろう。

赤ん坊の方がニコっと先に笑った。

俺もそのお返しに笑い、人差し指を差し入れた。

するとバタバタとしていた手でその指をすぐさま掴み、放そうとしない。

そのまましばらく掴まえさせておいて、その内にゆらゆらと左右に揺らしてみる。

その様子もじっと見つめ、何が面白いのかキャッキャと笑いだした。




「あらシン君、レイをあやしてくれてたの?よかったねぇ、レイ。」

後ろから急にチェギョンが声をかけ、俺にニコリと笑いかけ、すぐさまレイの、赤ん坊のホッペをツンツンとつっ突きあやしだす。

すると赤ん坊は俺の指を放し、新たな指へ手をかけ、握り締める。

「ママの指がわかったの?でも、新しいおもちゃじゃないのよ。」

赤ん坊に見せるとびきりの笑顔でそう言い聞かせるチェギョン。

赤ん坊はわかってるのかわかってないのか、それでもじっと握りしめ、放そうとしない。

「シン君、子供の力ってすごいね?」

視線は赤ん坊に寄せたまま、俺に突然聞いてくる。

「ああ、強いな。お前にきっと似たんだろう?」

笑ってからかってみる。

「そりゃあそうだもん。母親だもんね。強くなきゃ、こんな俺様のシン君に対応できないもの。」

彼女の方がひとつ上手だった。

「・・・お前、うまくかわすようになったな。」

やっとチェギョンはこちらに顔を向け、当り前じゃないと言う。

「もう何年の付き合いになると思うのよ?からかわれることぐらいわかるわ。いちいち対応していたら身が持たないもの。…シン君、もしかして・・・。」

ごく当たり前のようにそう言っていたが、急に何かをたくらんだ顔をして聞いてくる。

俺はぎょっとしたが、噯には出さずにこちらも対処した、

「…なにがだ?」

少したじろきながらだが。

あっちも負けずに、ベビーベッドの対照側から身体をこちらに寄せ、ニヒっと笑う。

「シン君、私がレイばっかりかまうからやきもちぃ?」

そんな言葉にドキッとする俺。

チェギョンはきっと核心をついていると思っているに違いない。

「………。」

横を向いた俺は何も言えなかった。

無言は肯定。

「…ハイハイ。生まれてからずっとレイにばっかり構ってたから、シン君すねちゃったのね。」

いつの間にやら自分の目の前に現れ、俺の顔を手で挟み、目線でごめんと訴える。

そしてそっと唇にキスをし、まるで瞬間移動するかのように妻は走り去って行った。

少しの間放心状態が続いた。

その横で親のそんな場面を見たにもかかわらず、いまだにじたばたと手を動かし、運動をしているわが子。

そっと抱きあげ、腕に抱きしめ、あやす。

そうすると静かに目を瞑り、眠りだす。

静かにまたベビーベッドに戻し、布団を掛ける。

部屋を出て、再び執務室へと戻ろうと歩き出す。





「もうシン君行っちゃうの?」

妻は俺を見かけたかと思うと、残念そうに声を掛ける。

「あともう一つ仕事が残ってるんだ。ちょっとの休憩に寄ったまでだ。」

俺は振り返り、妻にそう言う。

彼女は安心したかのようにほほ笑んだ。

聖母マリアがそこにいた。

「じゃあがんばって!!夜眠らずに待ってるわ。がんばってね!!」

ニッコリ笑って手を振り、見送る。

俺はいたたまれずに、踵を返し、スタスタと彼女の前に立ちはだかると、無言でキスを落とす。

唇を離し、にこりと笑って「夜期待してる。」と彼女の耳に語りかけ、顔を見ずにスタスタとまた歩きだした。

きっと彼女は、妻はゆでダコのように顔を真っ赤にしているだろう。

想像するだけでも笑える。

もう少しの辛抱だ。

背伸びをし、顔を元に戻し、再び歩き出した。






チェギョン、何を期待しようか?

お前が望むもの?

それとも俺が望むもの?

どちらにしてもきっと同じだろうから楽しみにしてるよ。

久しぶりに触れられるお前のぬくもりに…。







終わり。