LOVE PHANTOM episode 20
「こんにちは。ようこそいらっしゃいました、王子様。本当にお父様によく似てらっしゃる。」
フリーシアは本当にそう思った。あの頃のシンが戻ってきたのかと。
彼の後ろではチェギョンが首を傾げながらああでもないこうでもないと思っているのだろう。
フリーシアはまるで新しいおもちゃを見つけて喜んでいるような、そんな笑みを浮かべた。
「そうですか?大変光栄です。あ、申し遅れました。私、イ・チェヨンと言います。
よろしくお願いします。」
フリーシアは確かにチェヨンは父であるシンにそっくりだと言った。それは外見、姿かたちは確かにそっくりだった。
けれど、その物言いからは確実に別の人物、特に自分と今最も親しい人物の影を感じ取っていた。
確実にチェヨンの後ろにいる彼女に…。
「私はマーズ・フリーシアと申します。こちらがイ・ミンス。孫のような子です。
そしてあなたの後ろにいるのがミンスの母親、イ・シンチェです。
ですが、その名前は呼びにくいので、『リア』とこの街の者たちも私もそう呼んでます。」
フリーシアは簡単に説明し、食卓の前に座るよう促した。
チェヨンはその言葉に頷いて、素直に座った。
チェヨンの前にはフリーシアが、その隣にはミンスが座った。
そしてチェヨンのすぐ隣にはリアが座った。
「チェヨンさん、韓国人ですよね?私も母も韓国人です。でも私は生まれも育ちもここですけど。
韓国にはいまだに行ったことがないんです。」
ミンスは唐突に聞いた。
彼女にとって生粋の韓国人と食事を囲むのも初めてのことだったので、興味津津だった。
「はい。生まれも育ちも韓国のソウルです。現在芸術高校に通っています。
では、ぜひ韓国に一度来てください。ご案内しますよ。」
ミンスの興味津津の目にチェヨンはいたって普通に答えた。
なにも間違っていることは言っていない。
「芸術高校?」
リアはその言葉に懐かしさを覚えた。
「はい。父も昔通っていました。父の影響で映画科に在籍しています。」
容姿も映画科に在籍していることも全部似ている。
確かに彼がこのくらいの子供を持っていてもおかしくはない。
再婚したのだろうか?
可能性は十分にあった。
でも、どこかで自分だけであったらいいのにという思いも、リアの頭の中をかすむ。
そんなことあのしきたりと格式がある皇室が許すはずもないとも思った。
彼は今どうしているのだろうか?
イギリスに渡り、情報を知ろうと思ったらいくらでもできた。
けれど、すべてを自分は遮断した。
インターネットなどの情報に見向きもしなかった。
耳を塞ぎ、出来るだけ見ないようにした。
幸い、この家にはテレビがなかった。
怖かったのだ。
彼がいつか遠くに行ってしまうのが。
自分が去って以来、彼がどんな歳月を送ってきたのか、リア、いいえ、チェギョンは全く知らなかった。
幸せでいてと願いながらも、時はあの時に止まったままだった。