LOVE PHANTOM episode 21
フリーシアはチェヨンが何者で何の目的で来たのか知っていた。
それはいずれ訪れるものだとリアたちを預かったときから覚悟していた。
チェヨン自身、皇太子ということは一切話さず、ただの韓国人ということで和やかに会話していた。
リアはまだ他人の空似と自己完結し、フリーシアが英語の教師として韓国で働いていたことは知っていたので、教え子の息子の一人だろうと勝手に解釈した。
自分の中の危険信号は一切無視して。
いつの間にか、テーブルに並んだ料理の数々はきれいに消えてなくなり、食後の紅茶がそれぞれの前にあった。
「チェヨンさん、あなたはただ食事をするために、しかも私に会いに来たのではないでしょう?」
フリーシアは核心を突く。
それは諭すような言い方と要件を早く言えという催促の声だった。
チェヨンはニコリと笑って、無言で頷いた。
「ミンスさん、こちらにテディベアのぬいぐるみがあると思いますが、ありますか?
古いテティベアですけど…。」
チェヨンは標的をチェギョンではなく、その娘ミンスに当てた。
彼女の方が警戒心がなくてなんでも話してくれるだろうと思ったからである。
彼女に当てたのは間違ってはいなかった。
「アルフレッドのことですか?」
ミンスはすらっとチェヨンが欲しがっていた答えを差し出した。
誰にも分からないように、父親がふとやる特有の笑い方と同じ笑みを一瞬したが、まるで知らないふりを装った。
「アルフレッドと言うのですか?
ではアルフレッドはどういった経緯であなたのもとにやってきたのか教えていただけませんか?
僕にとってとても重要なことなんです。」
ミンスはアルフレッドのことでチェヨンが来たのではないかと簡単に納得した。
単純思考…それはまさに母親そっくりだった。
「私は父の顔も名前もすべて父に関することは知りません。
その父が私たちにくれたものだと母から聞きました。持ってきましょうか?」
チェヨンは何食わぬ顔で「はい、お願いします」と答え、ミンスはアルフレッドを取りに行った。
チェヨンの独特の雰囲気にリアの目は左右にきょろきょろと動き回る。
危険信号はまさにあたっていたのだ。
落ち着こうと思い、目の前のカップを手に取ろうとするのだが、手が振るえて取れない。
やっとのことで一口紅茶を流し込む。
それでも鼓動も振るえも全く止まる気配がなかった。
まるで最後の審判を待つ囚人のようだった。
そんな母親の心情を知らず、ミンスは2階からアルフレッドを抱えて戻ってきた。
そしてチェヨンに差し出した。
チェヨンはにこやかに笑って受取り、うれしそうに眺めた。
初めて対面するアルフレッド。
ずっと幼いころより、父から聞かされたあの時から会いたくて会いたくてたまらなかった。
頭から眺めたり、ひっくり返してお尻を見たり。
それはまるで子供が新しいおもちゃを与えられ、隅々まで触りまくる様のようだった。
チェヨンは目をキラキラ輝かせ、子供のようにアルフレッドに触れていた。
その光景はシンがアルフレッドに触れていたのと酷似していた。
ああ、結婚した頃にこうやってシン君がアルフレッドに触れていたなとチェギョンは思い出していた。
彼はシン君の子なのだろうか?
おそらくそうだろう。
今までのすべてのパズルはすべて当てはまっていた。