葵香の勝手 宮小説の世界

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LOVE PHANTOM episode 45

母の部屋。

母が寝ていたベッド。

母が使っていた机。

すべてそのまま。

クローゼットを開けると数点の服が・・・。

帰ってくるはずだったんだね・・・。

帰ってきたかったんだね・・・。

その思いが体中を駆け巡る。

1年?1年半?

そのくらいの短い結婚生活で、この場所はどんな二人を写していたのだろう。

幸せなことも苦しいこともあった・・・。

そう話していた母。

「あぁ、エリックに会いたい・・・。」

不思議にそう思う。

「あ~!!忘れてた…。電話!」

さっきギョンさん?に渡されたケイタイを手に取る。

「はい。ケイタイ。これがないと不便でしょう?」

何事もないように渡されたケイタイ。

「イギリスに掛けるんですけど、使えますか?」

思わず聞いたその言葉に彼はフっと笑った。

「大丈夫だよ。そのために海外使用のケイタイだから…。通話料とかは気にしないで。
 シンのポケットマネーから出るように細工しておいたから…。
 『個人情報がナントカ・・・』とか言わないでね。
 シンが目覚めて話しても『そうか…。」で終わるだろうから、大丈夫だよ。
 チェギョンにも同じものだけど、渡しといて…。
 説明書はこれね。わからなかったら俺の電話番号と妻の電話番号がもう入ってるから遠慮なく聞いて。
 チェギョンのほうのケイタイには俺ら含めて友達の電話番号が入ってるから、落ち着いたら電話してと
 伝えておいてくれよ。それだけでいいから・・・。」

彼はそう言って渡した後、奥さんのガンヒョンと一緒に帰っていった。

これはいいのだろうか?

機種代金は?

見送りながら不思議そうな顔をしたのは言うまでもない。

「大丈夫だよ。ギョンさんは韓国のIT業界を牛耳ってる人だから・・・。
 このケイタイも彼のところのものだから気にしないでいいよ。
 ほら、僕も同じものだからさ。」

と横でチェヨンはまるで心を読んだように解説した。

「フリーシアさんに電話しなくていいの?」

その言葉にあわてておばあちゃんに電話した。

甥っ子さんのところに電話すると、おばあちゃんが出て『無事に着きました』と伝えた。

『そうかい?リアはどうしてる?』

「今は父についてます。話したいことがいっぱいあるだろうから・・・。」

『リアが行ったらすぐ目覚めると思ったんだけどねぇ。

   ドラマの世界のようにはならないんだね。

    ミンスもリアも身体には気をつけて目覚めさせておくれ。

    その知らせを待ってるからね。
 そうそう、エリックから伝言。今日の夜は家にいるってさ。
 あと数時間したら電話しておくれ。気が気じゃないだろうから・・・。
 今までほったらかしにしとって。男って結局女がいなくちゃ何もできないんだよ。
 【がんばれ!!】とは言わん。あんたたちのペースでやればいい。
 結果は後からついてくるからね。時々は電話をくれよ。寂しくなるね~。』

生まれたときから一緒にいた彼女。

私も寂しいよ…。

でも口にしない。

何気ない会話をして電話を切った。


そして、現在ケイタイとにらめっこ。

どうする?

掛ける?

掛けない?

掛けるとしても最初何て言う?


――無事に着きました――


これが無難か。

よし、一念発起!

でも、なぜエリックごときにこんなに気を使って電話をしなくてはならないのか…?

う~ん、不思議!

でも、いっか!

電話をする。

普段どおり機械音がなる。

数回のコールで彼は出た。

『もしもし・・・。』

「エリック?私。今大丈夫?」

一応最低限のマナーで聞いてみる。

『無事に着いたか?』

「うん。」

『どうだ?母国は?』

「わかんない。ずっとそっちだったから…。ねぇ、エリック…。」

『…なんだ?』

「ありがとう。空港まで来てくれて…。ねぇ、エリック…。」

『…なんだ?』

「…会いたい。すっごく会いたいなって思ってしまう。
 そっちにいるころはいつでも会いにいけるって思ってた。
 生きてれば会えるって…。でも違うね。そうじゃないね。」

『…何だよ?珍しくそんな頭がいるようなこと言って…。どうした?何かあったのか?』

「何にもないの。両親見てるとさ、いいなって思ったんだ。
 こんな風になりたいなって思った。
 隣にあなたがいればいいのに・・・て思った。
 『会いたい』て思う。この距離がもどかしい…。」

『やけに素直だな…。怖いよ。ん?でも、お前、父親いたっけ?聞いたことないぞ。』

「私もさほんの数日前まで知らなかったんだ。会ったこともなかったし名前も知らなかった。
 20年間一度もだよ。でもね、母と父の絆を今ひしひしと感じてるんだ。
 別れたのはお互いの意思ではなかったようだけど、これだけ一人の人をずっと愛することができるのが
 すごいなって。こんな風になりたいなって思ったんだ。
 エリック…ねぇ、私たちもなれるかな?けんかばかりしたけど、何度も別れたけど、でも、心の中に
 いるのはいつもあなただった。悔しいほどに…。」

『今日は本当にお前、饒舌だな。いつもこうだと有難いんだが…。
 俺も会いたいよ、お前に…。抱きしめたいし、抱きたい。翼があったら飛んでいくのにな…。
 遠いな、そっちは。なぁ、約束してくれ。毎日電話すると。
 俺が出られなくても留守電に何か残しておいてくれ。それだけでいいから…。
 ミンス…。』

「ん?」

『愛してるよ。ずっと愛してる。今もこれからもお前を愛してるよ。』

「エリック・・・私も愛してるわ。今あなたに抱かれたいほどに…。あなたの腕の中にいたい…。
 また明日電話するわ。いつか会いにきて。目途が立ったら私も一度そっちに行くわ。
 どうしようもないほどあなたに会いたくなったら行くかもしれないけど…。」

『ああ、待ってる。俺も目途がついたら一度そっちに行くよ。お前の故郷を見てみたいし。
 時々フリーシアにも会いに行くから、そっちでがんばれ!!』

「ありがとう、愛してるわ。」

そう言って電話を切った。

本当にエリックに会いたいと思う。

彼のそばにいたいと思う。

いつか母に言われた。

「どんなことになっても離しちゃだめよ。彼はあなたにお似合いよ。素直になんなさい。」

泣きながら小言を言っていた私をいつも母はそう諭した。

そして二言目に「私のようになっちゃだめよ」といつも言っていた。


扉がギーっと音を立て、誰かが入ってくる。

それは寝ていたはずの母だった。

ミンス、こんなとこにいたの?探したわよ。ねぇ、おなか減った…。」

そういえばそんな時間か…。

母の胃は正直だった。

無言で先ほど渡されたケイタイを渡す。

『ん?』とわからない顔をするから説明する。

「ギョンさんから。お母さんの友人の電話番号、すべて入ってるって。
 落ち着いたら電話くださいですって。」

受け取ると電話帳を探り出し、微笑んだ。

私はその間、チェヨンに電話し、夕食の催促をした。