葵香の勝手 宮小説の世界

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リアの誕生―ep.2

ふと見ると、チェギョンは息も切れ切れだった。

額には脂汗が若干出ていた。

これはもしかした早いのかもしれない。

これで3度目。

早くてもおかしくはなかった。

スンレはその様子を見て、黙って自分たちの部屋に布団を引きに行った。

数十分後、ソヨがやってきた。

齢80を超えているのだろうか。

けれど、貫禄があった。

「すみません。ご足労を立てしまして。」

シンはそのまま一礼をした。

「まさかこの年まで生きていて、こんなことに巡り合うとは思わなかったよ。」

とニコッと笑った。

「さあて、奥方を移した方がいいな。運んでくれるかい?」

シンは頷き、チェギョンを抱きかかえ、部屋まで運んだ。

「すまないが、お湯をたっぷり沸かしてくれ。長丁場になりそうだから。」

そう後ろからついてきたスンレに言った。

すぐさまスンレは台所へ走って行き、大きそうな鍋にたっぷりの水を入れ、沸かし始めた。

「う~ん、まだまだだな。時期を待とう。」

チェギョンは横になった体で、しきりにうなっていた。

シンも三度目のことなので、黙って背中をさすっていた。

「甲斐甲斐しいことだね。ここまでする人はいないよ。いい旦那を持ったものだ。
 奥方にとっては幸せなことだよ。」

珍しくソヨは微笑んでいた。

ソヨはこの界隈では有名な人だったが、それには訳があった。

口が悪いで有名だった。

けれど、産婆としては昔っから有名だった。

数多くの子供を出産させ、昔は宮家から引っ張りだこだったとか。

「そこのぼんくら親父もわしが取り上げたが、あれはすごく時間がかかってな。
 結局はあれの母は亡くなったがな。
 かわいそうなことをした。
 もともと出産には不向きな身体だったが・・・。」

そう懐かしそうにしていた。

シンは聞きながらもさすっていた。

「健康な身体をしているが、まさか初産ではなかろうな?」

そう唐突に聞かれ、シンは皇帝スマイルで微笑んだ。

「いいえ、これでも二人産んでますよ。その子たちは別の部屋で寝ていますが。」

そう言っていると、バタバタと幼い足跡が聞こえた。

このてんやわんやの音で気がついたのだろう。

パサっと扉を開け、二人仲良く入ってきた。

レイはすぐさま母親を見て、わかったのか

「パパ、生まれそうなの?」

そう聞いてきた。

「まだ時間はかかるがな。」

すると、横にいたソヨに気がついたのか、一礼して父の元によってきた。

「ご近所のソヨさんだ。ママの出産を助けてくれる人だよ。」

そう伝えると、ソヨを二人してじっと見つめ、挨拶をした。

「イ・レイ。7歳です。よろしくお願いします。」

「イ・メイ。5歳です。よろしくお願いします。」

そうかわいく挨拶されたソヨは、これ以上ともない笑みを浮かべた。

「まあ、かわいらしいもんだね。皇帝陛下は幸せ者だよ。本当に。
 いい人を妻となさった。」

ずっとソヨはこの夫婦を褒めていた。

「そう言うのでしたら、こちらの亡きおじいさまにおっしゃってください。
 私たちを引き合わせてくれたのは亡き祖父たちですから。」

シンはそう答え、笑った。

きっとこの方はあの当時のゴシップを知らない様子だった。

「へえ、そうなのかい?あの世に行ったら御礼をしておくよ。」

そう言って、豪快に笑い出した。

その声にレイもメイもびっくりし、目が点になっていた。

子供の周りでこの年齢の方がこんなに笑ったのを見たことがなかったのだ。

「で、流産とかしたことはあるのかい?」

笑っていた顔が急に真顔になった。

「…ええ、一度、2年前に。」

それは今でもつらく、あの時のことをえぐられるような感覚だった。

「……。だったらお腹の中の子には良い母体だろうな。だから出てこないんだろう。」

そう言われて、みな「ヘッ」という顔をした。

「知らないのかい?その流れた子は次の子のために、母体をキレイにしてあの世に行くんだよ。
 まあ、これは昔の医者が考えたたわ言なのかもしれないがね。
 だからこの子は倍以上に祝福された子だよ。
 前のこの分もね。」

チェギョンの息がだんだんと荒くなった。

すでに時刻はかなり過ぎていた。

いつ生まれてもおかしくないとき。

レイもメイも父親の姿を見て、小さな小さなその手で母親の背中をさすっていた。

そこにはほほえましい家族の姿があった。

府院君とチェジュンはチェギョンの痛々しい声にいてもたってもいられず、部屋を出て行ったが、スンレだけは中にいた。

「陛下、このまま立ち会うのかい?」

「ええ、いつも立ち会ってましたから。子供たちも参加させますよ。」

「この国はいい皇帝をもったねえ。」

何ももう言わなかった。

シンは無言の了解と受け取り、みなそこから誰も立ち退かなかった。

ちょうどそのころ、やっとモク助産師が到着した。

コン内官とともに。






つづく・・・