LOVE PHANTOM episode 18
イギリスのド田舎。
観光客も滅多に来ない小さな小さな村。
その中の一軒家であるマーズ・フリーシアの家の住人は皆朝が早い。
一番早いのはイ・シンチェ。
シン・チェギョンである。
そしてその母が朝早くから朝日を見に行くので、頃合いを見て迎えに行く役目が娘のイ・ミンスである。
幼い頃からの習慣なのでミンス自身目覚まし時計がいらない。
その前に起きてしまう。
今日も起きだし、ラフな格好に着替えて母を迎えに階段を下りた。
階段を降りるといい匂いがする。
マーズ・フリーシアももう起きていて、朝食の準備をしている。
「ミンス、おはよう。」
気がついた彼女は孫のような娘に声を掛ける。
「おはよう、おばあちゃん。」
ミンスは彼女のことをうまれてからずっとそう呼んでいた。
本当の孫でないことは分かっている。
それでも孫のようにかわいがってくれているこの女性をミンスはずっとそう呼んでいた。
「ミンス。リアに今日は町まで出かけるから荷物持ち頼みたいんだけどと伝えて。
今日の夕方にお客さんがいらっしゃるの。料理も手伝ってくれると助かるんだけど。」
フリーシアは母、イ・シンチェを呼びにくいという一言で、「シンチェ」という発音が韓国語で「本当」の発音に近いことから、それを英語に訳し「Really」から取って『リア』と名付けていた。
それ故、彼女はこの町でリアという呼び名で呼ばれている。
「わかったわ。伝える。またアルフレッドを持っていった?」
ミンスはお決まりのセリフを聞いた。
「いつものことよ。」
フリーシアはミンスに向かってにこりとほほ笑むと、そう言い放ち、料理に専念した。
アルフレッド…。
古い古いテディベアのぬいぐるみ。
そのぬいぐるみはミンスが生まれた時に撮った写真にもしっかりと写っていた。
幼い時から「パパの代わりよ」と言われ、そばにあった。
そのぬいぐるみはいつも朝になると母が持って行ってしまうのだ。
母はいつもアルフレッドを抱いて朝日を見ていた。
今日も母が見ているであろう場所までミンスは歩いていく。
やはり母はアルフレッドを抱えて立ち尽くしたまま朝日が昇っていく様子を見ていた。
無言で何も言わずその横に立つ。
これがミンスの日常だった。
「お母さん、おばあちゃんが今日町まで行くから荷物持ちしてほしいって。
そして今日お客さんが来るから料理も手伝ってほしいって。」
忘れないうちに用件をまず言う。
リアはミンスの顔を見るわけでもなくずっと視線を太陽に向けたまま、そっと「そう」と呟いただけだった。
頃合いを見てリアは娘に声を掛ける。
「帰ろう。お腹がすいちゃった。」
笑顔でそう言って、娘に手を差し伸べる。
それを20歳になった今でもミンスはうれしく思い、母と手をつないで家まで歩いていく。
ゆっくりゆっくりと。
そんな時間がずっと続いていくと信じていた。
そんな日常はその日の夕方に打ち砕かれることになる。