葵香の勝手 宮小説の世界

yahooブログ「Today is the another day」からこちらに移行しました。

LOVE PHANTOM episode 39

ミンスチェヨン、そしてギョンとガンヒョン夫妻はヘミョンの後を歩き、ミンのいる部屋までやってきた。

ミンスはここはどれだけ広いのかとまるで異国の名所に訪れた観光客のように眺めていた。

「お母様、入ります。」

ヘミョンはそう告げ、中に入って行った。

その後を残りの者も続いた。

ミンとヒョンは体面に座り、一時の休憩タイムを味わっていた。

テーブルの上にはかわいらしいお菓子が並んでいた。

「お母様、お父様、ご一緒してよろしいかしら?」

その声にミンはヘミョンを見つめ、その後ろにいるチェヨンミンスを視界にとらえた。

ミンスは別れた頃のチェギョンを少し大人にした感じのようだったが、こう見ると20歳の頃のヘミョンにもどことなく似ていた。


―――DNAなんて確認しなくたって、外見がものを言っているわ…


「チェギョンは?」

チェギョンの姿が見えない。

「シンのところに置いてきたわ。私たちがいたんじゃ言えることも言えないでしょうから…。」

ヘミョンは肩をすくめ、笑っていた。

「そう…そうね、そうよね…でも、チェギョンが帰ってきてくれてよかった…。
 本当によかった…。」

ミンは感慨深そうにぼそっと呟くと、眼頭に涙を浮かべ、うれしそうに笑った。

ヘミョンにとっても母の笑顔は久しぶりだった。

シンが倒れて以来、ミンはほぼシンにつきっきりだった。

交替してヘミョンも看病していたが、ヘミョンは宮を結婚して出ていった人間。

なかなか毎日ということにはできなかった。

母が休むほんの数時間だけ替わるというくらい。

それにチェヨンがイギリスに行った後は、父ヒョンと共に、皇帝として君臨していた頃の人脈を使い、どうにかチェギョンをシンのもとに帰す方を優先してきた。

母のことはずっと気になっていが、どんなに顔色が悪かろうが凛としていた。

皇后だったあの頃のように…。

それがチェギョンが戻ってきて簡単に代わるということ、休むということはチェギョンが返ってくるまで守ろうとした気持ちがそうさせていたのだろう。

改めてこの母の強さを思い知った。

「お母様、お父様、ここで改めて紹介するわ。さっきあんまり見てないでしょう。
 シンとチェギョンの娘のイ・ミンスよ。」

ヘミョンはニコリと笑い、ミンスの後ろに回って背中を押した。

ミンスはその行動に驚き、突然全然知らない、先ほど少し顔を見ただけの祖父母の前に出され、眼をきょろきょろさせ、挙動不審だった。

イ・ミンスです。よろしくお願いします。」

何をよろしくなのか、本人もよく分からなかったが一応それらしく挨拶をし、もちろん頭も下げた。

ミンはそんな彼女を温かく優しいまなざしで見つめた。

そして、突然立ち上がったかと思うと、ミンスの傍まで行き、手を握った。

「ごめんなさいね。急に。びっくりしたでしょう。
 あなたにも、チェギョンに恨まれても私たちは仕方がないの。
 シンにとってとても大切だったあなた方を引き離したのはどんなにそうじゃないと言われても
 私たちのなの。ごめんなさい。20年間あなたのお父様を奪ってしまって。」

それは紛れもない本心だった。

もし、あの時状況が全く異なっていたら、ミンスはここで生まれ、シンとチェギョンの豊かな愛情のもとで成長していっただろう。

20年間、父と触れ合う時間を奪ってしまったのは紛れもなくこの私たち皇室なのは変わらない。

「それに…チェヨン。言われてみればあなたは本当にチェギョンの子だわ。
 素直なところはチェギョンによく似てる。
 あなたにもずっとチェギョンを奪ってしまってごめんなさいね。
 突然姉弟になってしまったけど仲良くチェギョンとシンを支えてね。」

隣りにいたチェヨンにも声をかけ、チェヨンの手を取り、ミンスの手の上に載せ、両手でしっかりと包んだ。

二人並ぶとあの時のシンとチェギョンがそこにいるようだった。

よく似てる…。

それはここにいる大人たちは誰もが思った。

離れて、それぞれ別々に育てられたのにあまりにもよく似ている。

そしてチェギョンの柔和さを両方ともが受け継いでいた。

ミンスチェヨンもウンウンと頷いた。

「ごめんなさい。自己紹介がまだだったわね。
 私はミン。あなたのお祖母様になるわね。そして…。」

目線を椅子に座っているヒョンに向けた。

ヒョンも優しい目をして、

「先ほどは失礼した。わしはシンの父で…。
 あいつはきっとそう言われることも拒んでおると思うが、ヒョンと申す。
 今まで引き離してすまなかった。どうかシンをよろしくな。」

それが精いっぱいだった。

息子には…シンには…目覚めたらきちんと詫びを入れようと思っていた。

チェヨンがイギリスに旅立って以来ずっと考えていたことだった。

あの時、もう少しきちんと息子と対峙しておればこんなことにはならなかっただろうに…と今更ながら悔やむ心があった。

そうすれば息子は、シンはもう少し自分に心を開いてくれていたのではないか…と。

ミンにはそれなりの態度を示すが、ヒョンに対してはシンは「無視」に近かった。

チェヨンさえも近づけさせなった。

それでいいと思っていた。

それだけのことをしたのだから、それでいいと思っていた。


ヒョンはじっとミンスを見つめていた。


「さあさあしんみりタイムは終わり!!おやつタイムでしょ?
 皇室のお菓子はおいしいから食べましょう…。」

ヘミョンの号令の下、それぞれにやっと笑顔を取り戻し、笑顔を交わしながら席に着いた。