LOVE PHANTOM episode 49
チェギョンが浴室から上がると、チェ尚宮によって服が用意されていた。
モスグリーンのシックなものだった。
ミンスもシャワーでも浴びたのだろう。
彼女も服装のアクセントの中の一部にモスグリーンが使われていた。
そしてもちろんチェヨンの中にも。
――やっぱりここは皇室だ――
チェギョンは改めてそう思った。
朝食はやはりテーブルの上にずらりと並び、チェギョンが好んで食べていたものも並んでいた。
――取り合いっこしたな――
そんなことも思い浮かべてしまう。
懐かしさでお腹が満腹になりそうだった。
「お母さん、懐かしいものでもあった?」
ミンスは隣に座りながらそんなことを尋ねる。
箸を持ったまま微笑んだままの状態の母親を気遣ってのことだろう。
「バカみたいに朝から好きなものを取り合いっこしたりね。楽しかった日々が浮かんでくるの。
もちろんそれでけんかもしたけどね。
口聞いてやんないと思うのに、いつの間にか普通に話してたり・・・。
子供だったのよ。本当に子供だった。ミンスもそんな経験あるでしょ?」
チェギョンはにんまり笑い、娘に振った。
振られた娘はぎょっとする。
監視カメラでもついていたのかと思ったくらいに。
チェギョンはそんな娘のコロコロ変わる表情を楽しそうに見ていた。
「姉上、『エリック』さんであってますよね?彼とはいつからの付き合いなんですか?」
その問いにミンスはう~んと考え込む。
そんな難しいことを聞いただろうかとチェヨンは思ったが…。
「エリックとは・・・生まれてすぐからの付き合いかな?
私ロンドンで生まれたの。
お祖母ちゃん、フリーシアの甥ごさんの隣がエリックの実家なんだけど。
エリックは私のおしめも替えたこともあるし、今までの過程をすべて見られてるからね。」
あっけらかんと言うミンスにチェヨンはびっくりする。
「では、彼氏となったのはどんな経緯で?」
チェヨンはやはりシンの血筋をしっかり継いでいる。
もちろんヘミョンとも。
「う~ん、いつだっけ?私がいつも追いかけていたからね。
振り向いてもらえたのは14歳の時?かな。
でも、その時彼は24歳だから、犯罪よね?
それから別れたり元に戻ったりの繰り返し。
でも、結局最後にはエリックのもとに戻ってしまう。
この前までケンカ別れしてたのよ、私たち。」
そう言ってミンスは笑う。
チェギョンも笑っていた。
そうだったわねとそれさえも懐かしく思う。
「パパは?」と言う前に、いつも「エリックが・・・」だった。
ミンスの中心はいつもエリックだった。
「また元鞘に戻ったんでしょ?電話はしたの?」
「うん、した。会いたいなぁ、彼に。抱きつきたいなぁ。」
その顔は先ほどとは違って女の顔だった。
チェギョンは娘のそんな成長を嬉しく思う反面、さみしくもあった。
2人がどういう風に月日を重ねてきたのか、身近で見てきた。
ミンスが泣いてる姿も笑った顔も…。
特別反対もせず、見守ってきた。
あまりにもぐだくだ言った時などは「早く結婚しちゃえばいいじゃない?」とせっつかせたくらいに…。
エリックはミンスの夫となるのに何の不服もない。
彼はどこかシンに似ていた。
はっきりこれとは言えなかったが。
――ああ、知らなくっても娘は父親に似た人を好きになるのね――
そんなことをある時思った。
今もそれは変わらない。
「シンく~ん、早く起きないとあなたの愛しい娘は嫁に行っちゃうよ~。
後から泣いたって知らないからね~。」
食事の途中だったが、思わずチェギョンはシンの部屋に聞こえるように声を掛けた。
その声に3人はケラケラと笑った。