HOME~暖かい場所~
シンは皇帝としての執務を終え、珍しく早く御所へと帰ってきた。
その時間、午後二時。
すると、チェギョンは子供部屋で2歳のメイと熟睡中だった。
レイはというと、その横で一人遊びに興じていた。
父親が入ってきたのがわかると、すっと足元により、満面の笑みで出迎えた。
「レイ、二人っきりで散歩に出かけようか?」
そう内緒事をするように微笑みかけ、その問いに息子は元気に返事をした。
部屋を出て、コン内官に少しの間出かけると伝え、レイの手を握り、散歩へ出かけた。
季節は秋を迎え、宮殿内は紅葉であふれていた。
レイは元気に父親の手をひっぱり、歩いていこうとする。
シンはそのかわいらしい手を見て、大きくなったものだと感心した。
この前までほんの赤ん坊で、オギャーと泣いては周囲を慌てさせていた。
けれど、毎日毎日成長する姿に驚かされ、時には感動し、またうれしくもあり、早く大人にならないでくれというさみしさも存在した。
どんなに疲れて帰ってきても、その寝顔で癒された。
「パパ~」と言われることがうれしかった。
その時、レイはシンの手を離し、目の前に現れたトンボを追っかけて行った。
「パパ~、はやく~。」
そう手を振り、また追いかけて行った。
「おい、扱けるなよ。」
そう忠告したが、聞いてはいないだろう。
そんな姿はまさにチェギョンそっくり。
思わず笑みがこぼれた。
そうやって、レイが追っかけまわっているのを遠くで見守り、時には追いかけっこをし、肩車をし、普段体験できないことをふたりして楽しんだ。
その姿は皇帝ではなく、ただの一組の親子だった。
「レイ、そろそろ帰ろうか。暗くなっちゃうから。」
もう景色は夕方で、陽が暮れようとしていた。
来た時と同じようにレイの手を握り、道を歩いていく。
たんたんと。
「パパ、ありがとう。楽しかったよ。」
そう言って、微笑んだ。
そのかわいらしい笑顔に、思わず頭を撫でていた。
そしてまた手をつないで歩いた。
シンはそこへふととある記憶がよみがえった。
父のような人に手をひかれ歩いている幼い子。
それはまさしく自分で、手を引いているのは父だった。
自分も同じように楽しそうに歩いた。
幸せだった。
あれは、まだ宮殿に上がるほんの少し前。
あの頃はまだ父を普通に「お父さん」と呼んでいたころ。
たぶん今のレイと同じくらいの時。
忘れていた光景が目の前にあった。
あの頃の自分は、この幸せが一生続くと信じていた。
幼い頃の自分。
それはあっという間に覆されたが・・・。
父は父でなくなり、母も母ではなくなった。
感情も思い出とともに封印してしまった。
今の自分と同じように頭を撫でてくれた父は同じようにとても穏やかな笑みを浮かべていた。
愛されていた…。
愛は確かにそこにあった…。
5歳で東宮にあがってからはみようとしなかったものが、信じられなくなったものが、
確かにあった。
「パパ、なんで泣いているの?」
自然と涙が流れていた。
「何でもないよ。うれしかったんだ。レイ、ありがとう。」
また頭をなでた。
そう言われた息子はキョトンとしていた。
レイ、パパもおなじようなパパのパパと散歩したことがあったんだ。
レイと同じような時に、パパのパパに頭をなでられたんだ。
とってもうれしかったよ。
でも、忘れてたんだ。
悲しいことにね。
でもな、今思い出したんだ。
なあ、レイ、忘れててもいい。
いつか大人になって、この記憶を思い出してくれたら。
レイ、おれにこの風景を思い起こしてくれてありがとう。
「レイ、もう少ししたら時間を作るから、おじいちゃまとおばあちゃまに会いに行こうか?
みんなで。メイもママも連れて。」
父上、母上、ありがとうございます。
こんな俺を愛してくれて、育ててくれて。
今、あなたたちの息子はとても幸せです。
ありがとうございます。
思い出を、愛を・・・。
今度家族みんなで伺います。
「やった~!!おじいちゃまに会える~。おばあちゃまに会える~。
パパ、早く~。ママにも早く知らせなきゃ!!」
あっという間に走り去っていく息子。
「わかった~。」
シンもスピードをあげ、息子を追っかけた。
Fin.
その時間、午後二時。
すると、チェギョンは子供部屋で2歳のメイと熟睡中だった。
レイはというと、その横で一人遊びに興じていた。
父親が入ってきたのがわかると、すっと足元により、満面の笑みで出迎えた。
「レイ、二人っきりで散歩に出かけようか?」
そう内緒事をするように微笑みかけ、その問いに息子は元気に返事をした。
部屋を出て、コン内官に少しの間出かけると伝え、レイの手を握り、散歩へ出かけた。
季節は秋を迎え、宮殿内は紅葉であふれていた。
レイは元気に父親の手をひっぱり、歩いていこうとする。
シンはそのかわいらしい手を見て、大きくなったものだと感心した。
この前までほんの赤ん坊で、オギャーと泣いては周囲を慌てさせていた。
けれど、毎日毎日成長する姿に驚かされ、時には感動し、またうれしくもあり、早く大人にならないでくれというさみしさも存在した。
どんなに疲れて帰ってきても、その寝顔で癒された。
「パパ~」と言われることがうれしかった。
その時、レイはシンの手を離し、目の前に現れたトンボを追っかけて行った。
「パパ~、はやく~。」
そう手を振り、また追いかけて行った。
「おい、扱けるなよ。」
そう忠告したが、聞いてはいないだろう。
そんな姿はまさにチェギョンそっくり。
思わず笑みがこぼれた。
そうやって、レイが追っかけまわっているのを遠くで見守り、時には追いかけっこをし、肩車をし、普段体験できないことをふたりして楽しんだ。
その姿は皇帝ではなく、ただの一組の親子だった。
「レイ、そろそろ帰ろうか。暗くなっちゃうから。」
もう景色は夕方で、陽が暮れようとしていた。
来た時と同じようにレイの手を握り、道を歩いていく。
たんたんと。
「パパ、ありがとう。楽しかったよ。」
そう言って、微笑んだ。
そのかわいらしい笑顔に、思わず頭を撫でていた。
そしてまた手をつないで歩いた。
シンはそこへふととある記憶がよみがえった。
父のような人に手をひかれ歩いている幼い子。
それはまさしく自分で、手を引いているのは父だった。
自分も同じように楽しそうに歩いた。
幸せだった。
あれは、まだ宮殿に上がるほんの少し前。
あの頃はまだ父を普通に「お父さん」と呼んでいたころ。
たぶん今のレイと同じくらいの時。
忘れていた光景が目の前にあった。
あの頃の自分は、この幸せが一生続くと信じていた。
幼い頃の自分。
それはあっという間に覆されたが・・・。
父は父でなくなり、母も母ではなくなった。
感情も思い出とともに封印してしまった。
今の自分と同じように頭を撫でてくれた父は同じようにとても穏やかな笑みを浮かべていた。
愛されていた…。
愛は確かにそこにあった…。
5歳で東宮にあがってからはみようとしなかったものが、信じられなくなったものが、
確かにあった。
「パパ、なんで泣いているの?」
自然と涙が流れていた。
「何でもないよ。うれしかったんだ。レイ、ありがとう。」
また頭をなでた。
そう言われた息子はキョトンとしていた。
レイ、パパもおなじようなパパのパパと散歩したことがあったんだ。
レイと同じような時に、パパのパパに頭をなでられたんだ。
とってもうれしかったよ。
でも、忘れてたんだ。
悲しいことにね。
でもな、今思い出したんだ。
なあ、レイ、忘れててもいい。
いつか大人になって、この記憶を思い出してくれたら。
レイ、おれにこの風景を思い起こしてくれてありがとう。
「レイ、もう少ししたら時間を作るから、おじいちゃまとおばあちゃまに会いに行こうか?
みんなで。メイもママも連れて。」
父上、母上、ありがとうございます。
こんな俺を愛してくれて、育ててくれて。
今、あなたたちの息子はとても幸せです。
ありがとうございます。
思い出を、愛を・・・。
今度家族みんなで伺います。
「やった~!!おじいちゃまに会える~。おばあちゃまに会える~。
パパ、早く~。ママにも早く知らせなきゃ!!」
あっという間に走り去っていく息子。
「わかった~。」
シンもスピードをあげ、息子を追っかけた。
Fin.